百名山、二百名山の挑戦時にはGPSトラッキングで現在地を公開していた。だが、今回の旅ではやめた。山頂で長時間、田中さんを待つファンが多く、安全確保が難しかったからだ。いわゆる「出待ち」のファンは減ったが、その分自然な出会いを楽しめたという。
田中さんが「ひと筆書き」に挑み始めたのは、旅先での経験がきっかけだった。
かつては、車やバスで登山口へ向かう一般的な登山を続けていた。だが12年に一人旅をした九州で、「ふと思い立って」山から山を徒歩でつないで歩いた。
「どこもかしこも初めて歩く場所で、風景や街並みが徐々に変わっていくのもおもしろかった。これこそが旅なんだと感動して、日本中をこんな風に歩いてみたいと思ったんです」
■今回のゴールも通過点
それが7年4カ月をかけた大冒険のテーマになった。旅を終えたいま、田中さんはこう話す。
「自分が本気でやりたいと思ったことに身を投じるべきだなと、改めて感じました。たとえ周りからみれば何のためかわからないことでも、自分にとって大切なことで意味がある挑戦だと思えば、胸を張ってステップを上がっていける。そのことを改めて教えられた時間でした」
今回のゴール・利尻島は、14年の百名山ひと筆書きでもゴールとなった地だ。島に置かれた記念プレートにはこんな一文が刻まれている。
これは田中陽希にとってさらなる挑戦への通過点である──。
7年前のゴールが「通過点」だったように、今回の旅もまた、自分にとっての通過点だと田中さんは力を込めた。(編集部・川口穣)
※AERA 2021年9月20日号