2020年4月17日/残雪の鳥海山。前日、緊急事態宣言が全国に(写真:ハタケスタジオ/本人提供)
2020年4月17日/残雪の鳥海山。前日、緊急事態宣言が全国に(写真:ハタケスタジオ/本人提供)

 百名山、二百名山の挑戦時にはGPSトラッキングで現在地を公開していた。だが、今回の旅ではやめた。山頂で長時間、田中さんを待つファンが多く、安全確保が難しかったからだ。いわゆる「出待ち」のファンは減ったが、その分自然な出会いを楽しめたという。

 田中さんが「ひと筆書き」に挑み始めたのは、旅先での経験がきっかけだった。

 かつては、車やバスで登山口へ向かう一般的な登山を続けていた。だが12年に一人旅をした九州で、「ふと思い立って」山から山を徒歩でつないで歩いた。

「どこもかしこも初めて歩く場所で、風景や街並みが徐々に変わっていくのもおもしろかった。これこそが旅なんだと感動して、日本中をこんな風に歩いてみたいと思ったんです」

■今回のゴールも通過点

 それが7年4カ月をかけた大冒険のテーマになった。旅を終えたいま、田中さんはこう話す。

「自分が本気でやりたいと思ったことに身を投じるべきだなと、改めて感じました。たとえ周りからみれば何のためかわからないことでも、自分にとって大切なことで意味がある挑戦だと思えば、胸を張ってステップを上がっていける。そのことを改めて教えられた時間でした」

 今回のゴール・利尻島は、14年の百名山ひと筆書きでもゴールとなった地だ。島に置かれた記念プレートにはこんな一文が刻まれている。

 これは田中陽希にとってさらなる挑戦への通過点である──。

 7年前のゴールが「通過点」だったように、今回の旅もまた、自分にとっての通過点だと田中さんは力を込めた。(編集部・川口穣)

AERA 2021年9月20日号

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?