西表島では遊覧船のツアーも人気を集める。島に自生するサキシマスオウノキも有名な観光スポットのひとつだ (c)朝日新聞社

「日本ではブレークスルー感染を恐れ、ワクチンを接種してもマスクが必要だという議論に終始しています。海外では接種してもデルタ株には感染するが、ほぼ重症化はしないという一定のリスク認識を共有したうえで、『ウィズコロナ』を選択しています」(上さん)

冬を見越して制限緩和

 海外の例からみても、行動制限の緩和は感染拡大につながりかねない。専門家からは、いま緩和の議論をすると「人々の意識がゆるむ」といった懸念も出ている。

 その一方で、デルタ株の特性とワクチンの効果や限界を踏まえ、ウィズコロナに向けた社会的コンセンサスを得る姿勢は乏しい。

 上さんは言う。

「ワクチンの接種率が上がり、感染者数がピークアウトしつつある今は本来、ワクチンパスポートを導入して行動制限を緩和するのに適したタイミングです」

 上さんは、ウイルスの季節性を考えると、この時期に人流が増えても感染者数が減る可能性が高いと唱える。昨夏の感染のピークは8月10日ごろ。8月20日ごろがピークとみられる今夏も、昨年の動きとほぼ重なる。

 欧米では冬の再流行を見越して、今のうちに行動制限を緩和しているという。上さんは「日本は完全に乗り遅れてしまいました」と言う。ただし、日本がウィズコロナに踏み切るには不可欠な条件がある。PCR検査体制の拡充と病床の確保だ。

■検査と隔離が不可欠

「行動制限を緩和しても、PCR検査がいつでも無料で実施できる体制を整えて、迅速に隔離することができれば、感染拡大を防ぐことができます。PCR検査を毎日実施した東京五輪では、選手と大会関係者の陽性率はそれぞれ0.2%、0.3%でした。これと同じことをなぜ国民にやってあげないのか、と思います」(上さん)

 ワクチン接種が進めば重症化する人は少なくなっても、全体の感染者数が増えれば、入院が必要な人たちは増えてしまう。そのとき、自宅療養しかできない状況では、社会の動揺は抑えられない。

「行動制限の緩和に踏み切るには、やはり病床の確保が必須です。それは国公立の病院が担うしかありません」(同)

 上さんは医療体制の充実が図られない場合、本格的な流行が予想される10月下旬~来年1月初旬の2カ月強が、おそらく最後の緊急事態宣言になると予想する。来春までに世界で治療薬が開発・承認され、ワクチンを接種できない人も治療薬でカバーできるようになる、と見込んでいるからだ。

「PCR検査を抑制したり、クラスターさえチェックすればいいという方針を打ち出したり。日本は世界とかけ離れた感染対策をしてきました。本来は国公立病院が担うべき病床の確保も、民間病院に押しつけているのが実情です。行動制限緩和の議論は、こうした誤った医療政策の転換を図る機会にしなければいけません」(同)

(編集部・渡辺豪)

AERA 2021年9月27日号

[AERA最新号はこちら]