一方、パスポート保有者に限定したイベントやキャンペーンの実施については、否定的な傾向だった。
「接種をした人たちだけを特別扱いして、打ちたくない人や打てない人が不利益になるような使い方はよしとしない意識が浮かびます。広く受容されるためには、優遇措置のバランスが肝要です」(井上さん)
■我慢の成果を示せ
第一生命経済研究所経済調査部の熊野英生首席エコノミストも「行動制限の緩和は、ワクチンを打たない人や打てない人を排除しないのがポイントです」と唱える。「長期戦を見据え、今はウィズコロナにシフトする転換期です」との認識を示す。
「飲食店や観光業界から聞くのは、『我慢の限界』という言葉です。段階的にこうなればこう緩和するという『我慢の期限』を設けて『我慢の成果』を示さないと、国民はついていく気になれません」(熊野さん)
熊野さんは、ワクチン接種を終えた層の経済効果にも注目する。観光庁によると、2019年7~12月の国内旅行消費の実績は10.1兆円だった。それが20年7~9月には4.9兆円に半減した。ただ、65歳以上で2回接種が終わった人は88.2%(9月15日公表時点)になる。19年並みの消費に戻ると仮定すれば、それだけで、かなり大きな効果が見込める。
「旅行やゴルフなどは高齢者の比率が高い。高齢者の利用が促進されると、再生が見込める産業は少なくありません」(同)
ワクチン接種が先行する欧米ではワクチンパスポートの導入が進む。欧州連合(EU)の「EUデジタルコロナ証明書」は今年7月1日、正式に運用開始され、国境をまたぐ移動にも使われている。フランスでは8月9日から、飲食店や病院の利用に接種や陰性証明書が必要になった。
「ワクチンパスポートの意味が世界で変わりつつあるのに、日本では認識共有が遅れているように感じます」
こう警鐘を鳴らすのは、医療ガバナンス研究所の上昌広理事長だ。
デルタ株の世界的な流行で、ワクチンを接種しても感染が防げない実態が改めて明確になった。7月4日の独立記念日のイベントでデルタ株のクラスターが起きた米国では、感染者の大半が接種済みの人たちだった。さらに、接種後に感染しても未接種の人とほぼ同量のウイルスを排出し、周囲に感染を広めていることもわかった。一方、接種後の人はほとんどが重症化しないことも確認された。