竹内結子さん(C)朝日新聞社
竹内結子さん(C)朝日新聞社

「手記からも、役づくりのヒントを得たみたいです。性犯罪の被害者は、家族や友達ですら、腫れ物に触るように接しているように感じられるといいます。それゆえ、家族に対しても何も打ち明けられなくなる自分がいる。そうした複雑な感情を、体全体で表現していました。この作品で彼女の“力強さ”みたいなものは引き出せたかなと思います」

 ただ、すべての撮影が順調だったわけではない。前述のように、佐藤監督と竹内さんは、ときにぶつかり合うこともあった。

 佐藤監督が最も印象的だったと語るのは、連続ドラマの終盤。姫川が実家で親ともめてビジネスホテルに帰るシーンだという。

 そのホテルの前で、姫川に思いを寄せる刑事・菊田和男(西島秀俊)は『大丈夫ですか』と声をかける。台本では、親とのもめ事や過去の傷についてずっと我慢していたものがあふれ、姫川が菊田の胸に抱きついて泣くことになっていた。しかし、竹内さんは、「私、何か泣けない」と言い出したという。

「結子さんは『部下の菊田の前ではちゃんとしなきゃ、ちゃんとしなきゃと思ってずっとやってきました。弱い所を見せたくない』と言うんです。だけど、ここで泣けなきゃ、その後、ホテルの部屋で1人になって、荷物を投げ出して怒りをぶつけるというストーリーが成り立たなくなってしまう。私も頑としてはねつけました」

 それでも、竹内さんは「どうしても泣けない」と直訴したという。

「しょうがないから目薬をしてもらって、泣いてもらいました。それ以外の姫川が泣くシーンは全て、結子さんが本当に泣いています。それくらい役に入っているんです。演技ではあっても、本当の感情が表情に出てくる瞬間というのがある。私たちもそれを待ちながら撮影していました」

 映画では、唯一のラブシーンもあった。相手役は背中一面に刺青のある極道役の俳優・大沢たかおだった。生真面目を絵に描いたような姫川がそのような男に惹かれ、体を許すシーンには観客もドギマギさせられた。撮影の様子はどんな感じだったのか。

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「打ち上げではみんなベロベロでした(笑)」