「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。
* * *
我が家の息子は、中学2年生です。
早産の後遺症で膝から下に麻痺がありますが、それ以外は同年代の男の子と何も変わりません。家族との会話よりもゲームやYouTubeに夢中な思春期真っ只中です。
■ひどい靴ずれができても
クラスや部活(パソコン部)には親友と呼べる友人たちがいて日々楽しく登校している一方、ふとしたことで、自分の足がみんなと違うことにコンプレックスを抱いてしまう場面もあるようです。
今回は、通常学級に通う肢体不自由児の話です。
つい最近、息子の足にひどい靴ずれができました。ひどくなるまで誰にも言わず、歩くのが困難になってからようやく私に話したようです。左足の人差し指にウオノメのようなものができ、親指の外側の皮がめくれて化膿し、指先から甲の辺りまで広範囲に腫れていました。
私「どうしてもっと早く言わないの? 靴がすり減ったらわかるでしょ? 長く歩く時は装具を使って、足にかかる負担を減らした方がいいと思うよ」
息子「は? 装具? なんで? べつに痛いのは自分なんだからいいじゃん」
■みんなと同じ靴が履きたい
息子は小学校低学年の時に、尖足(脳性まひ特有の症状で、踵が着かずにつま先立ちになること)を治すためにアキレス腱を伸ばす手術を受けました。この時、本人が前向きにオペを受け入れた最大の理由が、みんなと同じ『かっこいい靴』を履くためでした。
当時クラスではサッカーが大人気で、友人たちはみんなスポーツメーカーのロゴの入ったスニーカーを履いている中、つま先立ちになってしまう息子には装具しか履ける靴がなかったのです。
手術は大成功で、思っていた以上に足首が柔らかくなり、すぐに憧れの靴を履くことができました。
ドクターからは、体育の授業とサッカーをする時のみ、スニーカーを履いてもよいと言われたはずが、勝手に少しずつ装具を履く時間を減らしてしまい、ついにサイズアウトして終了となりました。その後も足のために1足だけは置いてあるものの、最後に作った装具は新品同様です。
母親としては、無理をすると後に響くので言い続けるしかありませんが、本人はとにかく『みんなと違うこと』や『障害』に関するアイテムを拒否します。そしてこんなに足が腫れても、学校への迎えを嫌がり、私からの電話をすり抜けて友人と電車で下校してしまうのです。