潰瘍性大腸炎をはじめ、パーキンソン病、全身性エリテマトーデス(膠原病)など、難病患者は年々増え続け、指定難病患者の数は約95万人を数える。医療の進歩によって、治療を続けながら働く難病患者も増えてきているが、患者の就労を支える仕組みはまだ十分でない。とくに就職活動中の大学生患者にとっては、就職相談ができる窓口さえほとんどないのが現状だ。難病患者の就職を支援する専門家に聞いた。
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■「ああ、安倍前首相の病気ですね」
難病患者に対する誤解や偏見は根強く、難病を患っていることを周囲に隠しながら働く人も多い。
そんななか、難病患者の就労に対するイメージを大きく変える人物が現れた。潰瘍性大腸炎であることを公表した安倍晋三・前首相である。
特に長期政権となった第2次安倍内閣では、適切な治療を受けさえすれば、首相という激務さえもこなせることを世間に強く印象づけた。
難病患者と企業をつなぐコーディネーターとして活躍する「就労支援ネットワークONE」代表の中金竜次さんは、「安倍前首相が自身の病気について明かした貢献は大きい」と語る。
「患者が就職を希望する企業から『患者さん、どんな病気なんですか?』と聞かれても、『安倍前首相が』と言うだけで、『ああ、あの病気ですか』と、話が通じやすくなりました。『そうなんですね。じゃあ、履歴書を送ってください』と、ふつうに受け止めてくれるようになった。私の手元では明らかに採用者が増えました」(中金さん、以下同)
全国的にも潰瘍性大腸炎であることを企業に開示する患者がここ5、6年で増えているという。
「この病気の場合、症状が悪化すると、トイレの回数が増えたりする。職場の人が病気のことを知らないと、『さぼっているんじゃないか』と、誤解を受けて人間関係が悪化することがけっこうあるのです。居心地が悪くなって離職し、それを繰り返してしまうと、働き口がなくなってしまいます」