西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、2年連続で最下位だったヤクルトが、優勝争いをするほど好調な理由を解説する。
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セ・リーグはヤクルト、阪神、パ・リーグはロッテ、オリックスが軸となって優勝争い最後の10月を迎えた。リーグでの1位は、ヤクルトが2015年にあるが、阪神は05年で、ロッテも05年が最後。オリックスにいたっては私が西武監督をしていた1996年、仰木監督時代までさかのぼる。
常勝軍団を築くのも大変だが、長らく優勝から遠ざかっているチームが優勝することは、根本的に何かが変わらないといけない。主力の世代交代もその一つであるし、戦い方そのものを見直さなければいけない。
ヤクルトは6年前に優勝しているが、昨年、一昨年と2年連続でリーグ最下位である。その原因は投手力の弱さにあることは明らかだった。打線には山田哲人に村上宗隆という球界を代表する二枚看板がいる。ベテランには背中を見せられる青木宣親がいる。外国人野手さえ失敗しなければ、得点力は計算できる。投手力が整備されれば……とヤクルトの監督なら誰もが思うだろう。
ただ、その中で高津臣吾監督は、およそ球界の常識にとらわれない、ある意味、逆転の発想で投手力を整えてきた。つまり「ローテーションを固定しない」という先発起用である。巨人、阪神との優勝争い。通常の戦い方なら、残り30~40試合を切ってから、エースと言われる投手は中5日で回したりする。それは「優勝するチームには強固な柱がいる、5人の先発投手がそろっている」ことが多いためで、そういった起用が常識だと思ってしまう。だが、ヤクルトはどうだろう。
9月は実に9人の先発投手を起用した。出場選手登録を抹消しながら中10日以上空けることもザラだ。高卒2年目の奥川恭伸がエースへの階段を上り始めているとはいえ、まだ経験値が足りない。軸を作らずに、最善の調整をさせ、ピンポイントで先発させる。絶対的な存在がいないがゆえにとった、逆転の発想である。