10月4日、岸田文雄内閣が発足した。総理大臣指名後記者会見の冒頭発言は、5分で眠気を催す内容だったが、最後に、10月14日に衆議院を解散し、19日公示、31日に総選挙を行うという爆弾宣言で世間を驚かせた。想定された最速の選挙日程をさらに1週間前倒しするという驚きの内容。決断力をアピールする幸先の良いスタートだ。
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その翌日の5日、真鍋淑郎氏のノーベル物理学賞受賞が決まった。前日の会見で、「成長戦略の第1は、科学技術立国の実現」と述べていた岸田氏にとって、祝砲ともなるニュースだ。
だがこれは、岸田氏にとって皮肉な結果でもある。真鍋氏は日本出身だが、長く米国で研究を続け米国籍を取得している。真鍋氏は、「最近の日本の研究は、以前に比べて好奇心を持って研究することが少なくなっている」。「日本では、科学者が政策を決める人に助言する方法、つまり、両者の間のチャンネルが互いに通じ合っていない」と語ったそうだ(朝日新聞)。
これを聞くと、多くの人は、自民党政権下で、日本の大学の基礎研究の予算削減が続いたことを思い浮かべるだろう。さらに、日本学術会議の任命拒否問題も思い出す。菅政権は、自民党政権に都合の悪いことを言う学者を日本の学術界を代表する機関から追い出したのだが、「聞く力」を売りにする岸田氏も任命拒否の判断を変えないと言っている。科学者が政策決定者に助言するためのチャンネルが通じていないという真鍋氏の批判は、今の自民党政権批判としてぴったりだ。
都合の悪いことはまだある。今回のノーベル物理学賞の授賞理由は、「地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発」だが、実は、今年8月に公表された国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書では、人間活動が及ぼす温暖化への影響について初めて「断定」したことが大きな話題となった。
ところが、総裁選中に行われた情報誌「オルタナ」のアンケートで、「気候変動は、人間の経済活動によるものと考えているか」との問いに対して、他の3候補が肯定したのに、岸田氏は、「科学的検証が前提だが、そうした部分もあると考えている」と断定を避けたのだ。IPCCの報告書を疑っていることを世界に発信するという大失態だ。