岸田文雄新内閣が10月4日に発足し、14日に衆院解散、19日に公示、31日に投開票と決まった。政権発足直後に支持率が上がる「ご祝儀相場」を狙った戦略だ。ジャーナリスト・池上彰氏と政治学者・山口二郎氏のオンライン対談で、自民党や新首相に対する評価を語り合った。 AERA 2021年10月18日号から。
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──新内閣を岸田首相は「新時代共創内閣」と命名しました。13人が初入閣で、若手の登用も目立ちます。
池上:自民党総裁選に当選後初のあいさつで、岸田さんはご自身の特技を「人の話をしっかり聞くこと」と語りました。問題は誰の話を聞くかということです。党役員人事を見ると、(元首相の)安倍晋三さんや麻生太郎さん、(幹事長の)甘利明さんという、いわゆるトリプルAに気を使いながらやっていることがわかる。あ、これは事実上の「第3次安倍内閣」になるのではないか、と。
山口:国民に不人気の菅義偉さんを首相から降ろして、自民党はある種のイメージチェンジを図ろうとした。安倍・菅という一つの長期政権のあとにどういう転換が起きるかが焦点です。1960年安保闘争のとき、安倍さんの祖父である岸信介内閣から(岸田首相が現会長の)宏池会の池田勇人内閣への転換がありました。「忍耐と寛容」という岸政治に対するアンチテーゼを出し、経済成長路線で国民を統合していった。これは中身のある転換で、後の自民党のパラダイムにもなりました。
池上:総裁選のさなかに、岸田さんが「令和版所得倍増」という言い方をしましたよね。ああ、池田さんを本当に意識しているんだな、と思ったんです。
■危機感がない自民党
──岸田首相は総裁選に当選した直後のスピーチで、「民主主義の危機」を訴えました。
山口:大変勇気ある言葉だったと思います。でも、日本の政治が直面する危機が一体何なのか、なぜ危機が起きたのかを掘り下げてはいません。あまりにも不人気な菅さんが辞めたことで、自民党のみなさんの危機感がなくなってしまった。