医学生が医師免許を手に入れるために突破しなければならない関門・医師国家試験。2021年、この合格率が100%だった大学がただ一つある。学費は実質ゼロ円という全国的にも珍しい制度を持つ、自治医科大学だ。なぜ合格率が高いのか、そこには切実な理由があった。その秘密に迫った。
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2021年3月、9058人が医師国家試験に合格した。合格率は91.4%。大学別の合格率ランキングを見ると、医学部を擁する60大学が合格率9割を超えている。このランキングのトップで、唯一受験者全員が合格したのが自治医科大学(栃木県下野市)だ。9年連続で1位の「常連トップ校」。さらに2年連続、合格率100%を誇る。過去9年間で合格率はすべて99%を超え、全国平均を大きく上回る。
自治医科大は1972年、当時問題視されていたへき地などでの医師不足の解消を目的に、自治省(総務省の前身)の旗振りで栃木県に設立された。全国の都道府県が共同出資した学校法人によって運営されており、私立大学の形式をとっている。入学試験は、1次試験(マークシート式試験と面接)を各都道府県で実施し、2次試験(記述式試験と面接)を大学で行う。入学後は入学金や学費の全額2300万円が貸与される。そして卒業後、各都道府県知事が指定するへき地などの医療機関で一定年数勤務すると、その返還を免除される。つまり学費は「実質ゼロ円」だ。
同大では、特別補講が春、夏、そして国家試験直前の冬に行われる。国家試験対策には大学全体で力を入れており、学生は国家試験合格のための予備校などは基本的には利用しないという。同大医学教育センター長の岡崎仁昭教授はこう話す。
「本学の入学生は、各都道府県から2、3人が選抜されています。地域医療にとって、医師が一人でも欠けるのは非常に痛い。各都道府県からお預かりした志望者はみんな合格させ、6年後に医師として出身地にお返しするという思いで、大学全体がチームで教育に取り組んでいます」
5、6学年に進級試験として課す「総合判定試験」は、教員たちが半年ほどかけて、医師国家試験出題基準に準拠した問題に徹底的にブラッシュアップする。毎年、新作の問題を作成しているうえに、学生に復習を促すため解答だけではなく解説集も作成するなど、周到に練られている。