イラスト/いらすとや
イラスト/いらすとや

 同保育園は東京都多摩市の住宅地にある。周囲は子どもの声はそれほど気にしていないようだが、「太鼓の音がうるさい」というクレームは過去にあった。窓をしっかり閉め、太鼓で遊ぶ日を事前に知らせるなどして理解を得たという。

「近隣の方々とは普段からコミュニケーションを取るようにしています。そうすると、だいたい了解していただけますね」と山根さん。子どもが遊ぶにも、さまざまな配慮が必要な社会になったようだ。

 ではそもそも、なぜ子どもが大声を出したり、遊んだりするのが大人は気になるのだろう。

 神奈川大学人間科学部教授で、子どもの教育相談も受けている杉山崇さんにたずねると、こんな答えが返ってきた。

「子どもを守るため、大人は本能的にその存在に敏感になる必要がある。だから声や行動がどうしても気にかかるようになっていて、子どもの声が選択的に脳に届くようになっているのです」

 この傾向はあらゆる動物にあるが、特に人間は問題や課題を解決して進化していく過程で、目の前の課題に集中するときに子どもの声が脳に届くと行動や思考が中断されるので、子どもの声が「うるさい」となっていったという。

「子どもはできることを全力でやることで成長していく。大きな声を発することや自由な行動を強く抑制すると、成長を妨げかねません」。子どものころ思いっきり遊べなかったのがトラウマとなり、大人になっても思いきったことができないなど、モヤモヤが晴れないという相談が増えているそうだ。

「子どもにとってほどよい危険がある環境で遊ばせるのが適切です。危険が全くない場所では、何が危ないか、何がよくないかを学ばなくなってしまいます」と杉山さん。子どもを締め付ける社会になってしまっては、子どもの成長の芽を摘み、ひいては社会全体が萎縮してしまう可能性があると話す。

「不安がいっぱいで余裕がない世の中ですが、一人ひとりが心の中だけでも穏やかに暮らそうと思ってほしいですね。そうなれば、子どもの遊びや大きな声にも寛容になれると思います」

(本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2021年10月22日号

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