一緒に芝居するようになってから、10年先行ってる、と思いました。付き合えば付き合うほど、もっと先行ってると思いました。だから、飲んでて言ったことがあるんです。

「アニキは、追い付け、って言うけど、追い付こうと思って頑張ってると、そのまた先へ行く。一生かかっても追い付けない。ゆっくり進んでくれませんか」と。それは芝居の話じゃないんです。あの人は、僕にはまねできない、色んなアンテナを張り巡らせてて、生き方が先行ってるんです。感覚だから説明できないけど、2、3年分追い付いてきたかな、と思うと、さらに10年先に進んじゃってて、つまりは17、8年先行ってることになる。というぐらい、どんどん開いていく……そういう感覚にさせられるんですよ。

 カリスマって、神に一番近い人のことですが、僕にとってのカリスマはアニキです。

 僕が「アニキ」って言い出したのは、一緒に芝居するようになって、2本目くらいのときです。

 アニキは原田芳雄さんのことを「アニキ」、渡哲也さんのことを「あにい」、勝新太郎さんのことを「師匠」って呼んでました。で、アニキのことを周りは「優作」とか「松田」とか呼んでて、同期(年齢は向こうが3歳上)の僕もそう言っていいんだけど、言えなくて、文学座当時に僕が付けたあだ名の「ジャンボ」と呼んでたんです。で、あるとき「やめてくれよ。呼び方、変えてくれないか」と言われて、「俺にとってジャンボはアニキだよね」「いいね、その響き」。次の日から「アニキ」で、「お前が俺をアニキと呼ぶなら、俺はお前のことをテツと呼ぶ」と。

 ある年齢になったとき、急にカヌーの練習に付き合わされました。「今から、あるところに行く。一緒に行こう」と言われてね。

 埼玉の戸田ボート場の横に学生が練習する場所があって、そこに行ったんです。何すんだ? と思ってたら、若い男の子が2人来て「優作さん、本当にやりますか」「おう、お願い」。訳が分からないまま付いてくとカヌーが用意されてて、「今から練習をします」「え、聞いてねえよ」ってやつです。

 だけど、ひっくり返ったらどうやって抜け出すか、どうやってカヌーを起こすか、ってところから始まって、アニキも一緒に1日中カヌーの練習でした。で、その帰り、「俺、ちょっと寄りたいところがある」と。「いいっすよ」と言った俺は、どこかの飲み屋に行くのかと思ってたら池袋の西武デパートのスポーツ売り場に行って、その場でカヌーを買ったんです。1日しか練習してないのに。

 で、ちょっと仕事が落ち着いた日、「テツ、行くぞ」。「は?」「乗れ。1泊で行くから」「は?」。着いたのは秩父の奥の方。カヌーで川下りすると……。平坦なところは何とかなっても、急流とかゴツゴツした岩場とか、危ないでしょ、1日しか練習してないんですから……。だけど行くんです、アニキは。実際、僕には死にそうなことが起きて「助けてくれ~」と言ったんですが、釣り人に「邪魔だぁ」とか言われてねぇ。アニキは振り返らないですから。先に降りて待ってて、「おう、テツ、大丈夫か」(笑)。そういうこともありました。

 やろうと思ったらすぐやって、それもトコトンなんですよ。手を抜くとか気を抜くことがないんです。遊びでも一生懸命で、本気。何に対しても前向き。それが皆さんにも伝わってたと思うんです。

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「お前、今、一番やりたいものは何だ?」