そんな中で4年前、膵臓(すいぞう)に腫瘍(しゅよう)が見つかって、《これで終わるのかも……やり残してることがある》と思ったとき、一番に浮かんだのが、《この作品を、どうしてもやりたい》ということでした。《やらないままでは逝けない》と。あのときできなかったことをやりたい、というより、アニキに近付くためにね。近付ける訳がないんですけどね。それで(松田優作の妻)美由紀さんに「三十三回忌までに上演したい」と相談して、その翌年、聖志郎くんに話したんです。

 アニキの作った作品で、台本が残っているのがこれしかないんですよ。それも1978年の初演の本番の10日ぐらい前にアニキが「テツ、どうだ、まとまってきたよな」って言うから「随分まとまりましたね」と答えると、「じゃあ、本にしとけ」と。それまでは、皆がアニキの口にする言葉をノートに書きながらやってたんです。アニキはそういう作り方でしたが、普通は台本がありますから例外的な話です。

 で、今回、演出は僕。勝てないんですけど、僕は僕なりに、この『~挽歌』を、こういう風に理解して作り上げます。それを天国のアニキに見せたい。《つたないけど、観て下さい》。そういう感じです。

 発病から5年目を迎える来年12月、僕はがん再発の不安から一応開放されます。だけど、《この芝居で、怒り心頭になったら、僕を連れて行ってください。もし、やったな!と思ったら、もう少し生かして下さい》……この前、そういう気持ちでアニキのお墓参りに行ってきました。だから必死です。

(聞き手・構成 渡辺勘郎)

「真夜中に挽歌」(作・松田優作、演出・野瀬哲男)公演。11月3~7日、東京・サンモールスタジオ。出演=松永涼平、野元空、藍梨、崔哲浩。4500円(全席自由)。予約=CoRich/問い合わせ=パディハウス(電話03-3385-2256)。公式HP(https://mayonakanibanka.com/)

※週刊朝日 2021年11月5日号の記事に加筆