「真夜中に挽歌」(作・松田優作)の公演ポスター
「真夜中に挽歌」(作・松田優作)の公演ポスター

 まだ若いときから言ってたのが「現場には最低20分前には入ってろ。で、先に入ることで周りに気を遣え」でした。僕が運転するときも「30分前に着けるように俺はお前を呼んでる。そうしとけば、道が混んでも20分前には着くだろう」と。で、遅れそうになると「おい、20分前には着くぞ。これ、着かんぞ。あっち、あっち」「おい野瀬、出せ、出せ」って感じで後ろからせかされて、警察に捕まったことがあります。ワーッとスピード出したらそこでネズミ捕りをやってまして(笑)。

 時間を守ることにうるさかった。キッチリしてるんです。遅刻なんて、自分も他人も許さない。だから、アニキがキャストだったり、監督だったりしたら、現場は張り詰めた空気でした。初めてきた役者さんは僕に「おい、優作ちゃんの現場って、こんなに緊張感あふれる感じでいつも始まるの」と聞いてきて「そうだよ。心地いいでしょ」と答えると「いや、オレ、どうやっていたらいいかわからん」と言ってましたね。

 アニキは、ハッキリしてるんです。道理に合うか合わないかにものすごくこだわる人でした。その辺が分かれば付き合えるんですが、それが分からなくて離れていく人も多かったですね。最後の頃は「人として、どうか」と言い出して、こだわってました。「その行動は、人として成り立っているのか」とかね。

 愛情深い人なんです。ただ、それに甘えるやつは、殴られる(笑)。ある時期、あの人は、気を遣え、ではなく、「心を遣え」と言ってました。「気を遣っておべんちゃらを言うのではなく、心を遣って接しろ」と。そういう色んなことを飲みながら聞かされました。

 皆さん、何それ、と思われるかもしれないけど、飲んでる最中に「オレ、昨日、月を1周してきた」とか「この前、ジュピターに行ったらな」なんて話をするんです。有り得ないけど、そのときの僕らは《この人は行ってる》《幽体離脱でもして行ってきたんじゃないか》と思ったんです。そう思わせるものがありました。だから「どうでした?」って真剣に聞きました。

 仲間が死んだときの悲しみ方もすごかった。

 何と言ったらいいんでしょう……次元が違うんですよ、アニキは。スポーツで言うなら大リーグで活躍してる大谷翔平。彼は次元が違うと言われてますよね。似たようなものです。

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やろうと思ったらすぐやって、それもトコトン