
■史上最高勝率も視野に
ほとんどトップクラスの相手としか当たらないタイトル保持者が勝率8割を超えるのは異例のことだが、例外がないわけではない。昨年度の藤井がまさにそうであったし、また95年度、奇跡の七冠同時保持を達成した際の羽生が8割3分6厘(46勝9敗)という成績を収めている。今年度終盤には「史上最高勝率なるか?」という報道が過熱しているかもしれない。
一方、豊島の今年度成績は17勝14敗(5割4分8厘)。藤井戦の3勝9敗をのぞけば14勝5敗であり、特に不調という感はない。26日の王将戦リーグでは「四強」の一角である永瀬拓矢王座(29)を相手に大逆転勝ちを収め、底力を示した。
トップクラスの棋士は宿命的にハードスケジュールの中で戦い続ける。第2局から息をつく間もなく、第3局は10月30、31日の日程だ。
「まずは内容をよくできるようにしたいと思います」
豊島はそう語っていた。豊島が後手番でブレークして勝てば、また雰囲気は変わっていただろう。今年度第2局まで、後手番で藤井に勝てたのは豊島だけだ。
「あまりスコアは意識せずに、また次の対局に向けて、いい状態で臨めるようにできればと思います」
そう語っていた藤井の側にはいつものように、気負いもプレッシャーも感じられなかった。結果は藤井が勝って一気3連勝。竜王位奪取まであと1勝に迫った。
豊島─藤井戦の一局ごとの勝敗によって、将棋界の未来は違ったように見えてくる。(ライター・松本博文)
※AERA 2021年11月8日号を一部改変