タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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評価額が4兆円を超えたオーストラリアのスタートアップ企業「Canva」の創業者が、その資産をほぼ全て寄付しました。Canvaは誰でも簡単にウェブデザインができるお馴染みのツール。創業者のメラニー・パーキンスと夫のクリフ・オブレヒトは、30代にしてそれぞれ資産65億ドル(約7400億円)の大富豪に! そしてそのほぼ全てをCanva財団に寄付。財団は1千万ドル(約11億円)をアフリカの貧困支援を行うNPOに寄付し、今後も寄付活動を積極的に行うそう。心底リスペクトです。
一昨年Amazonの創業者ジェフ・ベゾスと離婚して世界で最も裕福な女性となったマッケンジー・スコットも、パンデミックの困窮者支援などに総額85億ドル(約9680億円)を寄付しています。
今、COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が開かれています。不可逆的な地球温暖化の連鎖の危機を回避するには、世界が一丸となって温室効果ガス排出削減に努め、ここ数年で劇的な成果を上げねば間に合わない。すでに災害増加や食糧難、深刻な水不足が起きています。誰も他人事ではありません。
この夏、相次いで打ち上げられた富豪たちの民間ロケットを見て、冷めた気持ちになりました。宇宙滞在はせいぜい5分程度。今後、パンデミックで資産を増やした富裕層はこぞって高い搭乗チケットを買い、宇宙空間でコロナ明けのパーティーでもやるのでしょう。宇宙旅行ビジネスで富豪たちはますます儲かるというわけです。でもその足元の地球に息づく無数の命が見えていないなら、何のための富かと虚しく思います。
今後は毎年の資産総額ではなく、寄付総額で富豪ランキングを作ってほしい。ちゃんと再分配を行い、人の命と地球環境を守る「最もいいお金の使い方」をした功績をこそ称えるべきです。
※AERA 2021年11月8日号