「芸術は爆発だ!」──。晩年、そう言い残した岡本太郎。彼のイメージと言えば、ギラギラとした生命力を放つ絵画や彫刻だろう。しかし、初期作は「これをあの岡本太郎が?」と感じるほど“地味”だ。そこから浮かび上がる「世界のTARO」の新たな一面とは。
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岡本が1930年代にパリで制作したと推定される「作品A」「作品B」「作品C」が、「展覧会 岡本太郎」で初公開されている。同時期の作品とされる「空間」「コントルポアン」「傷ましき腕」「露店」を含めたこれらの初期作は、岡本の作品らしくないと感じるかもしれない。また、彼の召集から復員まで(42~46年)の作品も同様だ。「師団長の肖像」「眠る兵士」からは、戦争に翻弄される岡本の姿が浮かぶ。東京都美術館学芸員の藪前知子氏は、戦争が彼に与えた影響をこう語る。「過酷な運命にこそ自分を投げ出すという信念を生んだこと。もう一つは、それまでのエリート意識が崩れ、自分も大衆の一人なのだと考えるようになったこと。だから岡本はパブリックアートや商品のデザインに力を入れました」。誰もが触れられる作品を通じて社会に挑み、大衆の創造性を呼び起こそうとしたのかもしれない。その表現の根底には、対立や矛盾が生み出す不協和音から新たな創造を目指す「対極主義」があった。観る側も全身で彼にぶつかってみたい。(取材・文/本誌・唐澤俊介)
※週刊朝日 2022年11月18日号