本をどう読み、何を読めばいいのか、模索する人も少なくないはず。そこで、本好きな人たちに、それぞれのテーマで両極にあると感じる「両極本」を含む、オススメ本5冊を聞いた。AERA 2021年11月8日号から。
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■十重田裕一さん(57)/早稲田大学教授・国際文学館長(村上春樹ライブラリー)
言葉の音色を聴きながら読む
私はいつも、音楽を聴くように文章を読みます。言葉の音色を聴きながら読み進めていると、心地よい戦慄(せんりつ)が走ることがあります。『猫を棄てる 父親について語るとき』を読み進めると、心理的な軋轢(あつれき)のある父親について語る「僕」が、「僕ら」へと転調する人称の揺らぎに深い感銘を受けます。高妍さんの装画・挿絵も素晴らしい。
『女優 岡田茉莉子』は、日本映画黄金期を駆け抜け、現在も活躍する「大女優」の渾身(こんしん)の一作です。時代と格闘する一人の女性の姿が明晰(めいせき)9な筆致で描き出され、読者を魅了してやみません。映画人たちの自伝は、好んで読みます。それは、1895年にパリで誕生した芸術に一生をかけた方々に対する深い敬意を感じると同時に、絢爛(けんらん)たる映画を見るかのような歓びを味わえるからです。今年刊行の『岸惠子自伝』も素敵な一冊です。
滋味豊かな食事と同じように、書物は生活を豊かにしてくれる存在です。
【私の両極本】
音楽を聴くように読む 『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹著/文藝春秋
映画を見るように読む 『女優 岡田茉莉子』岡田茉莉子著/文藝春秋
『母の遺産 新聞小説』水村美苗著/中央公論新社 『献灯使』多和田葉子著/講談社 『経済学の宇宙』岩井克人著/日本経済新聞出版社