■面白い語彙を吸収
主人公は、貧乏でモテなくて悲愴(ひそう)感のある若い男なんですけど、とにかく性格がめちゃくちゃ悪い。友達になってほしいと願っているくせに、相手を見下したり。読みながら「なんて器の小さい人間なんだろう」と思うんですけど、でも自分にも思い当たる節があるんですよね。例えば、後輩におごったことをずっと覚えていてほしい、とか(笑)。そうやって、他人事じゃないなと思いながら読んでいるうちに、付箋だらけになってしまいました。
小説以外の本でいえば、ジェンダー問題を論じた『存在しない女たち』は興味深い一冊でした。どうして女性には権利がないんだろう?と思った時に、「そもそも女性は存在しないことになっていたから」と考えると、いま世の中で起きていることがすごく見えやすくなって。客観的なデータから男女格差を示していくんですが、「社会はこんなにも女性のことを考えていないのか!」という驚きと発見がすごかったです。途中、思わず本を投げつけたくなるようなところがたくさんあるので、読む時はお好きなアロマをたいたり、お風呂でリラックスしながら読むことをおすすめします。
私の場合、面白い語彙とか言いまわしは、圧倒的に本から吸収しています。耳から聞いたりするよりも、本を開いて、手のひらから浮き上がってくる言葉のほうが深く入ってくるんです。
本を読むことのいちばんの醍醐味は、「うまく言葉にできていなかったけど、こういうのあるよな」という曖昧なものを、目に見える形で見せてくれるところ。そういう言葉や文章と出合った時の喜びは、何ものにも代えがたいです。
(編集部・藤井直樹)
※AERA 2021年11月8日号