「介護の必要な高齢者や認知症の方は、視力に関係なく見えている範囲が狭まっているので、いきなり目の前に出てこられると驚いてしまいます。話すのも早口だと、認知症の人には言葉としてではなく強い音が飛んでくるように聞こえてしまいます。正面から瞳を見つめて低めに、抑揚をつけて『ごはん、たべてね』と、言葉が歌っているようにゆっくり話すのがいいのです」
コロナ禍で「触れる」機会が減ってきてはいるが、
「触れると安心する方がいます。つかむような触れ方ではなく、なるべく広い面積でゆっくりとした動作で触れます。相手も不安や抵抗が減って、良い関係性が生まれます」
周囲は、もどかしさから先回りしてやってしまいがちだが、それも避けたい。できることを奪ってしまうと、できないことが増えてしまう。「たぶん無理」。そんな思い込みが、できる能力を奪っていくという。
「認知症の人でもできることはあります。役割や得意なことを探してあげてください。そのためには相手の方の人生を知る必要があります。そして決して驚かせないこと。驚かせたり興奮させたりすると介護ができないなど、このケア技術を用いても良い関係性を築くことが困難となります」
(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2021年11月12日号より抜粋