「日本で承認されれば保険で使えるようになる可能性はあります。しかし実際の薬価がどの程度になるか、また症状が進行した人への投与が認められるかどうかは不明です。脳の浮腫や出血などの副作用もあり得るので、投与を受ける人は適切に継続的にMRIでチェックをするなどの注意が必要だと思います」
両社は別の新薬候補「レカネマブ」も共同開発していて、最終段階の治験を進めているという。アデュカヌマブと同様にAβを減らし、進行を抑えることをめざしている。
認知症の患者やその家族にとって、治療薬ができることが大きな希望であることは間違いないだろう。
ただ、一方で、薬での治療に注意を呼びかける声もある。『認知症の「真実」』などの著書がある介護ライターの東田勉さんは、過去の認知症の薬が副作用で問題となった点などを挙げ、こう指摘する。
「そもそも薬で治さなければならない病気なのでしょうか。すぐに命に関わるわけではない。加齢に伴う認知症は医療より介護の出番と考えるべきだと思います」
介護の現場では、こんな取り組みも進んでいる。
約40年前にフランスで生まれた「ユマニチュード」というケアの技法だ。ユマニチュードとは日本語で「人間らしさを取り戻す」という意味だ。
家族が認知症になると、なぜこんなこともできないのか、とつい声を荒らげてしまう場面も多い。ユマニチュードの認定インストラクターで看護師の盛真知子さんによると、この技法は、四つの柱となる「見る」「話す」「触れる」「立つ」を中心に、優しく接するのがポイントという。
たとえば「見る」では、たとえ家の中であっても毎回、ノックをして「今、来たよ」というサインを送る。そして遠くから相手の目線の先に入り、そこから徐々に近づく。大げさと言えるようなアクションに見えるかもしれないが、たとえば、「お父さん、会いに来たよ」と、優しく声をかけながら近づいていく。「大切に思っている存在」ということを伝えるようにしっかり目を合わせて行う。