◆“5”がつく日は「ワインの日」
日本の介護業界に昔から根づく「お世話をしてあげる」というメンタリティーは、利用者の子ども扱いの原因の一つだと指摘される。ふれあいの家では、敬語で話したり、トイレは個室の外で見守ったりと、自尊心に配慮した対応がとられている。
利用者のとっておきの楽しみが、「ワインの日」。毎月“5”がつく日の昼食時、小さなコップ1杯のワインもしくはジュースが出る。カレンダーを見て、「俺が来る曜日はワインの日が少ない」と文句を言う人がいるほど、大人気のイベントだ。
「通い始めてからうつ症状が落ち着いた」と話すのは、小菅晧揚(こうよう)さん(77)。昨年秋に妻を亡くし、当初は心療内科にかかるほどふさぎこんでいた。「来たばかりのころは暗いって言われてたけど、今は明るくなったって。仲間と過ごしているからだね」
だが本人は楽しんで通っていても、家族の意向で別の施設に移る人もいる。デイサービスに対し、入浴介助や口腔ケア、専門的な運動訓練など、健康や身体機能向上のための本格的なサービスを求める声は一定数ある。
施設長の松本典子さんは、最終日に寂しそうな顔をする利用者を見るたび、「家族に面倒をみてもらっている以上、移りたくないとは言いづらいのだろう」と感じるという。「生きてるっていいねって思ってもらうこと。それがみなさんの健康のためのここのやり方です」
一般社団法人日本デイサービス協会の森剛士理事長によると、豪華な食事や旅行、マッサージなど魅力的なサービスを打ち出して差別化を図る施設は増えているという。
「楽しんで通うきっかけづくりだけでなく、要介護度を下げるなど利用者の健康増進につなげることが重要。社会保障費が膨らむ中、デイサービスには『預かる』だけではなく『自立支援』の役目も求められています」
男性も“楽しく元気な老後”からこぼれ落ちることのないよう、介護の現場はあの手この手で工夫をこらしている。(本誌・大谷百合絵)
※週刊朝日 2021年11月12日号