施設の随所には、思わず通いたくなるような工夫がちりばめられている。送迎車は、金の文字で“Las Vegas”と書かれた黒塗りのワンボックスカー。「近所の人に恥ずかしいから介護施設っぽい白い車で来るな」という利用者の声を反映したものだ。店に入ったときにワクワクするよう、赤のカーペットを敷いたりシャンデリア風の照明を下げたりと内装にもこだわる。
利用者の一人で、自称「元・北千住のナンパ王」のOさん(76)は、初めて訪れたときの驚きを振り返る。「デイサービスなんてじいさんとばあさんばっかりの老人ホームみたいなところだと思ってたけど、ここは楽しいところだなって」
森社長にとって印象深い老夫婦の姿がある。妻に連れられて見学に来た男性が「明日から行く」と口にした途端、妻が号泣したのだ。男性は体の自由が利かず精神的にも荒れていた。介護で疲労困憊(こんぱい)した妻は夫にさまざまな施設を勧めたが、拒まれ続けていたという。
ラスベガスに通い始めて、要介護度が改善した人は少なくない。「歩けるようになったり、会話が増えて顔つきも変わったり。心が元気になれば体も元気になるケースは多い。『ここがなきゃ、家から一歩も出なくなって死んでた』と話すかたもいました」(森社長)
時には、「ギャンブル依存症になるのでは?」「税金である介護保険料を遊びに使うのか」などと批判的な声も寄せられる。しかし森社長はきっぱりと口にした。
「これまでの利用者約5千人のうち、依存症になった人はゼロ。際限なく遊べる環境ではないので依存できません。手段は遊びですが、活力や健康を取り戻すという結果を出している。それが一番大事だと思います」
東京都杉並区にある「松渓ふれあいの家」も、利用者の7割を男性が占めるデイサービスだ。オープンは01年。定年後、居場所を求めていた男性5人が、「自分たちが行きたくなる理想の場所をつくろう」と立ち上げた。
一日の利用者は15人ほどで、おのおのが麻雀や囲碁、将棋などに興じる、穏やかなサロンのような雰囲気だ。70~80代のシニアボランティアも輪に加わるが、本人の達成感を奪わないよう、フォローは最小限にしている。