だが、この案には反発もある。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。
「安倍氏が総裁選で無派閥の高市氏を支援したことで、細田派の総裁候補になるはずだった下村博文前政調会長や萩生田光一経済産業相らは立候補すらできませんでした。現在でも細田派内では安倍氏のとった行動に遺恨があります。その中で、安倍氏が派閥会長として高市氏を次の首相候補にしようとすれば、細田派内の不満はさらに高まることになります」
安倍派が誕生すれば、党内のパワーバランスは一気に安倍・高市ペアに傾く。岸田氏も、そのことを意識して細田派の「分断工作」を仕掛けているとの見方もある。
もともと清和会は、安倍氏の祖父である岸信介元首相や父の安倍晋太郎元外相の流れをくむ「安倍系」と、福田赳夫・福田康夫両元首相の系譜に連なる「福田系」の二つの流れがある。細田氏は福田系で、岸田政権の発足に伴って起用された松野博一官房長官や福田達夫総務会長も同じだ。別の自民党関係者は言う。
「岸田氏は、党内最大派閥の細田派を無視して政権運営はできません。一方で、細田派で安倍氏の影響力が強まれば『キングメーカー』になってしまう。そこで、岸田氏は細田派でも福田系の議員を人事で優遇した。安倍氏は、派閥の論理を無視して高市氏支援に動いたわけですから、人事に不満があっても強く言えないんです」
岸田氏が安倍・高市ペアに対抗するためのキーマンになりそうなのが、今回の衆院選山口3区に参議院から鞍替え出馬して初当選した林芳正元文部科学相だ。
◆先代からの因縁 安倍vs.林の戦争
林氏の父である林義郎元厚生相は、中選挙区制時代の旧山口1区で安倍晋太郎氏と激しく闘った。その因縁は今でも残っていて、山口県内の保守層は安倍派と林派に色分けされているほどだ。
父の代から続く安倍氏の“ライバル”林芳正氏は、岸田派の実質ナンバー2。現在、空席となっている外相に起用される見込みだ。