世論調査では尹氏がリードしているようですが、一番重要なポイントは今もレームダックにならずに、異例の30%台の支持率を確保している文在寅(ムン・ジェイン)大統領がキャスティングボートを握っていることです。

 文大統領は、野党候補の尹氏が大統領になれば、自分の功績が覆されるのではないかと危惧していると思います。だから、与党候補の李氏にテコ入れするはずです。また、選挙までにいわゆる「北風」を吹かせる可能性もありそうです。具体的には、リモートでの南北首脳会談などで南北融和を演出し、さらには朝鮮戦争終結宣言も浮上してくるかもしれません。

 どちらになっても日本側が、韓国側が事態の解決に向けて最初にアクションを起こさなければ首脳会談自体があり得ないという態度を通す限り、日韓関係に新たな進展は期待できそうにありません。ただし、与党では非主流派で国会議員の経験もなく、その意味でしがらみがない李氏ならば、かつての小泉純一郎元首相のように予想外の対応で膠着(こうちゃく)した日韓関係に風穴を開けるかもしれません。韓国の大統領選から目が離せません。

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

AERA 2021年11月22日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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