姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 来年3月の韓国大統領選挙で、与党は弁護士出身で前京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)氏、野党は前検事総長の尹錫悦(ユン・ソギョル)氏が選出されました。

 李氏は過激な発言から「韓国のトランプ」と称されていますが、基本的な政策はドナルド・トランプ氏というよりもバーニー・サンダース氏です。李氏の自治体の長としての成果の一つに、大胆な所得再配分の実施があります。目玉がベーシックインカムに近い制度の導入でした。それによって所得の分極化を是正し、貧困層のボトムアップをはかりつつ需要を喚起し、成長につなげようとする戦略です。こうした点でも李氏は、トランプというよりも「がらっぱちのサンダース」と言った方が正確でしょう。

「政権交代の象徴」と言われている尹氏は、ソウル大卒のエリートです。韓国社会にとって、検察権力は司法権力であると同時に、政治的な意味合いが濃厚です。そういう背景の中で、政治的な経歴のない尹氏の出馬は、「正義」「公正」を願う韓国国民の期待に応えるという一面もあります。

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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