私達が最寄りの駅についた時も、まわりの乗客が協力して窓からホームへ子供の私を抱きかかえて降ろしてくれた。困難の中人々は協力し、生きのびる術を手にしていた。

 次は、高校大学時代の満員の通学列車である。大阪から父の実家のある東京に移ってからは、ドアの開閉の瞬間、押しこまれた人々にけが人が出るのではと心配だったし、それが自分かも知れないと思うと怖かった。

 もう一つ忘れられないのが映画館。唯一の娯楽ともいえる映画を見るのも全て立ち見で人々に押されながら、小柄な私は大人の男達の脇の下から背のびしてやっと見ることができた。

 そんな毎日だったから混雑に馴れていた。あんな時代を無事生き抜くには、自分なりの知恵が必要だった。お互いに協力することも必須だった。

 今の時代は情報も、交通整理も行きとどいているはずなのに、こんな事故が起きる。人が人を呼ぶ。群衆は群衆を求める。なぜなのか。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年11月18日号

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