というわけで一瞬の華やかな時を過ごしているんだが、有名人と会えば緊張してうまく話せないし、気合が空回りしてガックリ帰宅することも多い。華やかな日々は落ち込む日々と背中合わせ。ああ私ってやっぱりダメかも。次の本だっていつ出せるか……と暗い妄想に支配されそうになる時、いつもの近所の豆腐屋、米屋、酒屋、カフェでの全くどうということもない雑談や、銭湯帰りに町中華でおっちゃんが焼いた餃子(ギョーザ)を食べるひとときに盛大に救われた。私が本を出そうが有名人と対談しようがそんなことは一切関係なく、いつも通り笑顔でたわいもない話をしてくれる人たちに、いかに自分の心ががっちりと支えられているかを痛感する今日この頃である。
子供の頃、偉い人になりたかった。それが人生の目標なのだと普通に信じていた。いや子供の頃だけじゃない。大人になってからもかなりの間そう信じていた気がする。
でも最近思うのだ。世の中を本当に支えているのは偉い人でも有名な人でもなく、普通の人なんだと。自分もそういう普通の人であれば良いのだと。
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2021年11月22日号