週に3、4回はランニングする。冒険を続けるためには体力の維持が欠かせないからだ。鎌倉周辺、もしくは江の島方面に行くこともあって1回十数キロを走る。膝を捻らないようサポーターを着けている(撮影/今祥雄)
週に3、4回はランニングする。冒険を続けるためには体力の維持が欠かせないからだ。鎌倉周辺、もしくは江の島方面に行くこともあって1回十数キロを走る。膝を捻らないようサポーターを着けている(撮影/今祥雄)

自由に生きていきたい
サラリーマンにはなるまい

 受賞歴豊富な探検家が書く作品とあれば、重々しいという先入観をもってしまいがちだが、違う。ツアンポー峡谷への興味をもつきっかけになる本を読んだ時の感想を、「赤いドレスを着て胸を大きくはだけた金髪美女が、一〇代の若者にこっちへ来なさいと手招きしているようなものだった」と書いたり、『極夜行』では同行した犬に自分のウンコを食べられお尻を舐められた後、不意に「あふっ」という声を漏らす様子が描かれたりする。

 一部をつまみ出すと下品に感じるかも知れないが、全体をみればユーモアとして絶妙な味付けになり、飽きさせずに読ませる仕掛けになっている。聞けば、「授業中に面白いことを言って笑わせるタイプだった」という。

 子どもの頃から冒険に興味があったわけではない。母の純子に聞くと、冒頭の荻田の証言と同様、冒険からほど遠いものばかりだ。

「ひどい時は毎月のように中耳炎になって、熱をだして幼稚園や学校をよく休んでいましたね。外で遊ぶのは大好きなんですが、骨折など怪我はしょっちゅう。それによく泣くので幼稚園の時は“泣き虫三羽ガラス”の一人だったんです。成長が遅くて体が小さく、声変わりも中学3年生頃だったですね。忘れ物も多くて、学校に行くのにランドセルを忘れた時には、取りに帰ってきて泣いていました。冒険先で命を忘れてこないか心配で」

 当時、角幡が望んでいたのは、北海道芦別市にある実家を早く出たいということである。4人きょうだいの長男なので、家業のスーパーマーケットの後継者として見られていると思い込んでいたのだ。純子に取材すると、「親は継がせようとは考えていなかった」という。いずれにせよそうした境遇にあったため、「何のために生きるのか」を自らに問い、「自由に生きたい」「つまらない生き方はしたくない」と考え、サラリーマンにだけはなるまいと心に誓うようになる。慶應義塾大学に現役合格したのに、所属したアメリカンフットボールサークルの先輩が一流企業に躊躇なく就職する姿に幻滅し、秋に退学するほどだった。

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