林:はい。
森本:第二ステージは、いわゆる「グレーゾーン事態」「ハイブリッド戦」状態と言います。「グレーゾーン事態」とは、平時でも有事でもない状況で、武力を行使していないが、軍事力で威嚇しているグレー(灰色な)状態ということです。そういう事態の中で行われる「ハイブリッド戦」とは、主にサイバー攻撃と情報戦、経済戦などを組み合わせ、非軍事を装った攻勢作戦のことを言います。14年のロシアによるクリミア占領のような事態です。
林:それってどんなものですか。
森本:例えば、サイバー攻撃や非合法活動によって台湾政府や軍の通信や重要インフラを妨害し、機密情報を盗んだり、指揮機能を壊したり、経済活動に大きな混乱を引き起こす。台湾国内の親中派をあおるような偽情報を流したり、国籍を隠した工作員を入り込ませて、統一反対派の要人を脅迫したり、台湾政府に対する反体制世論工作をするなどということが考えられます。
林:まあ、大変なことですね。
森本:台湾の経済はほとんど中国に依存していますから、貿易や投資、労働力の移動をシャットアウトして、孤立させるように仕向ける。さらには、台湾が持っている南シナ海の太平島、東沙島、澎湖諸島を海上民兵で占領して、台湾の海上輸送路を封鎖し、サプライチェーンを破壊して経済的圧力をかける。海上民兵は漁民に扮している武装戦力であり、中国は武力を行使していない、と言い逃れができるんです。これらすべての活動は、国際法上の武力行使に当たらないので、国連安保理決議が通らない。そもそも、中国も常任理事国ですしね。
林:確かにそうです。
森本:そして第三ステージは短期で武力統一するというシナリオです。ただし、中国にとって、アメリカとの武力衝突はハイリスクです。だから米空母が不在のとき、尖閣に民兵を上陸させて日米の防衛力を引き付け、台湾海峡の防衛が薄いときを狙う。それでも、米国と中国のあいだに起こった紛争は、どんな小さなものでも、双方、絶対に負けが許されないのです。もし台湾侵攻で米軍の介入を招いてしまえば、勝敗が決まるまで戦争は終わらない。中国が負けたら共産党は崩壊しますし、アメリカが負けたらインド太平洋における優位は完全に崩壊し、すべての米軍は引き揚げなければならなくなります。