三沢は真面目な分だけ、リングで命を懸けて戦って、その疲労やダメージを外で発散しようと思っていたんじゃないかな。自分の団体を持って、注目されて、神輿(みこし)に乗せられて、それも心地よかったと思う。そうじゃないと、こんな割の合わない商売はやってられないよ。そうやって苦境を乗り越えていったけど、最後はコンディション悪そうだったもんね……。最期もプロレスの技で亡くなるなんて……。それだけひとつひとつの技に命を懸けていて、だからその戦いが終わった後は、解き放たれた猟犬のように遊んだんだと思う。まあ、その遊び方を教えたのは、俺と円楽師匠だけど……。とにかく飲め!歌え!の俺と、嘘つきで心の冷たい円楽師匠(笑)の教えだから、よっぽど気を張っていないと奈落に落ちると思って、自分でしっかりしようと思っていたんじゃないか? 仕事がうまくいってる時においしい酒を覚えると、それを追及して、心地よく飲めるようになる。三沢が酒を覚えたのも、彼がグッと伸びていく時期だったからね。
芸能人でいうと、テレビで共演して、ギャップに驚いたのはトランプマンだ。収録が終わった後、知らないおっさんが近づいてきて「どうも! 初めまして、トランプマンです!」って素顔の彼が話しかけてきたんだけど、顔も声も知らないから最初は戸惑ったよ(笑)。トランプマンはプロレスが好きらしく、挨拶してからは、ずーーーーーーーーーーっと彼一人でしゃべり続けていて、もうその時に何を話したかまったく覚えていない! ひとしきりしゃべり倒して帰って行ったけど、俺と一緒にいた娘は「本当にトランプマンだよね!?」としばらく、呆然としていたよ(笑)。全くイメージと違う人物だった!
もう一人、イメージとギャップで印象的だったのは高倉健さん。俺がプロレスに転向したばかりの頃、健さんと同じ赤坂にあるスポーツジムに通っていたんだ。そこは地下にトレーニング室があって、1階にシャワーがある造りになっている。そこで健さんはトレーニングが終わると、室内に向かって毎回「ありがとうございました。お世話になりました。お先に失礼します」って頭を下げていたんだ。毎回だよ! もっと怖い人だと思っていたけど、義理堅くて、キッチリした人なんだと知ったよ。そして、その後にシャワーを浴びに行くと、狭いシャワー室に3人くらいの付き人が入って、健さんの背中を流しているのを見て「やっぱりこの人はスターだ!」と思い知らされたね!(笑)
プロレスラーだけでなく、芸能人や俳優も、イメージと違ったり、素顔にギャップがあったりするからこそ、人間的な魅力があるのかもね。俺だって見た目や声とギャップがあるくらい、本当は優しい心の持ち主なんだぞ!(笑)
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。