小池真理子さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・松永卓也)
小池真理子さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・松永卓也)

林:ああ、散文詩のように。

小池:散文詩って起承転結もないし、散文的な文章なら、自分のこの悲しみを、正直にてらいなく書けるんじゃないかと思ったんですね。たくさんの野鳥が毎年卵を産んで元気なヒナがかえり、キツネやテンが行き来している。そういった自然界の法則って、私がどんなに嘆き悲しんで孤独にあえいでいても、それまでどおりの秩序の中で淡々と繰り返されていくわけですよね。そんな世界に自分を放り込んで暮らしているうちに、自然と言葉が生まれてきたみたいです。

林:藤田さんは、亡くなる少し前に「年をとったおまえを見たかった。見られないとわかると残念だな」とおっしゃったとか? こんな切ない愛の言葉、聞いたことないというぐらいすごいですよ。やっぱり藤田さん、作家なんですよね。

小池:病気になってからは、それに類することをよく言ってました。生き続けたかったんだと思います。「俺は三島が好きだったけど、今は太宰治になった」とか言って、太宰の虚無主義的な生き方を参考にして、自分の死を一生懸命受け入れようとしてたんですけどね。でも、死が近づけば近づくほど、この人は今、本当に生きたがっている、死にたくないんだ、というのが伝わってきてつらかったです。どれだけがん細胞に侵されても、「生きたい」と願っていた。そういう状態の中で、よくそんなセリフが出てきたな、と今は思います。

林:本当にそうですね。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

小池真理子(こいけ・まりこ/1952年、東京都生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社勤務を経て、78年にエッセー『知的悪女のすすめ』を発表。89年「妻の女友達」で日本推理作家協会賞、96年に『恋』で直木賞、98年に『欲望』で島清恋愛文学賞、2006年に『虹の彼方』で柴田錬三郎賞、12年『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞、13年『沈黙のひと』で吉川英治文学賞を受賞。近著に『死の島』『神よ憐れみたまえ』など。最新刊はエッセー『月夜の森の梟』。

週刊朝日  2021年12月10日号より抜粋

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