「このうちの消極的安楽死が、私たちのいう尊厳死のことです」

 そう語るのは、公益財団法人日本尊厳死協会の岩尾總一郎代表理事だ。

 同協会は、自分の病気が治る見込みがなく死期が迫ってきたときに、延命治療を断って死を選ぶ権利を社会に認めてもらうことを目的に、76年に設立された。

 現在、会員数は約10万人。それぞれ死期が迫ったときに延命治療を断る「リビング・ウイル」と呼ばれる事前指示書を作成している。(1)無意味な延命措置の拒否(2)苦痛を和らげる措置は最大限に実施(3)回復不能な植物状態に陥った場合は生命維持措置を取りやめてほしい──という願いを医師に伝えるのだ。

 岩尾氏が説明する。

「医師の中には、治らないということは敗北であると考える人が多いのです。でも治すことだけではない。30~40代の人を治すために一生懸命頑張るのと、80代の人が病気になって治療をするのとは違います。仮に治らなくてもQOL(生活の質)を上げられるはずです。今は何が何でも治すことに主眼が置かれ、患者に負担がかかっています」

「何が何でも」という医者側の強い思いが、患者を管だらけにして尊厳を損なうことにつながりかねないというのだ。

 もっとも、医師の立場ながらも尊厳死を認めるべきだと主張する人もいる。同協会の副理事長で長尾クリニック(兵庫県尼崎市)院長の長尾和宏氏は、『小説「安楽死特区」』を出版。在宅医療に取り組み、昨年も150人の死を看取った長尾氏は、こう説明している。

「皆さんが憧れてるのは、安楽死じゃなく“安楽な死”。痛くない苦しまない死に方ですよね。それなら、もっと自然に逝ける尊厳死がある。(略)私はこれまで、在宅医療で1200人以上お看取りした。みんな尊厳死です。尊厳死ならより長く生き、最後まで食べられてお話しができて、苦痛も少ない」(東洋経済オンライン2020年2月16日)

 同協会専務理事で日本医科大学特任教授の北村義浩氏は持論を説明する。

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