あくまでも、個人の活動があり、YOASOBIはユニット。そこがまたよいんです。はかなくて。Ayaseのソロ曲も僕はかなり好きです。「幽霊東京」って曲はかなり好き。歌もかなりうまいです。
そんなYOASOBIは、「monogatary.com」の小説『タナトスの誘惑』を原作とした1stシングル「夜に駆ける」でデビュー。これが2020年大ヒットするんですね。累計再生数が史上初の5億回を突破だとか。
小説を音楽にするってどういうこと?と思う人も多いでしょう。ここがとても大切で。ドラマだと主題歌だったりしまよね? 小説を読んでなんとなくそのテーマ曲を作るとかじゃないんです。その小説をYOASOBIなりの解釈で歌に仕立てる。
僕のラジオ番組にAyase君が出演したことがきっかけで、何か一緒に作りましょうとなり、昨年僕は小説「月王子」を執筆。それをYOASOBIが「ハルカ」にしたんですね。
なぜハルカかと言うと、物語の主人公が「遥」で、そこから「ハルカ」になっているんですね。物語は主人公の遥という女性がずっと使っているマグカップとの物語。
最後にそのマグカップは割れて、お別れするのですが、その割れたところから過去を振り返っている話なんです。
Ayase君はこの小説を読んで、この物語の世界観を歌にするだけでなく、なんと物語の構成と歌の構成をかぶらせるということをしているのです。
小説での種明かしを、歌の終盤でもやってのけるのです。これを聞いた時に、驚きました。小説を歌にするってこういうことかと。
そして、先日発売になったEP集「THE BOOK 2」では、僕が作・演出した田中圭君主演の舞台「もしも命が描けたら」のテーマ曲「もしも命が描けたら」が入っています。
舞台を作る時にYOASOBIに曲を頼みました。僕が書いた戯曲をもとに歌を作るんですが、できあがってきた曲を見て驚きました。
もう歌っているというよりは、一つの物語を語り継いでいるんです。悲しい物語。でもちょっと希望の見える。そんな物語の語り部として歌を作る。すごい。
従来の音楽の形にとらわれず、自由に物語を歌に仕立て上げていくYOASOBI。
なんとなくしか知らない大人たちは一度じっくり歌詞を見て、その世界に没入してほしい。
■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。毎週金曜更新のバブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」と毎週水曜更新のラブホラー漫画「お化けと風鈴」の原作を担当し、自身のインスタグラムで公開中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)は発売中。「お化けと風鈴」はLINE漫画でも連載スタート。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が好評発売中。長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。作演出を手掛ける舞台「怖い絵」が2022年3月に東京・大阪にて上演