横尾忠則
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 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの新連載「シン・老人のナイショ話」が「週刊朝日」で始まった。横尾さんが日々感じたことを書き綴る。

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 この間、新聞で面白い記事を見つけました。18歳から25歳の男女それぞれ200人に「人生の時間割」と題して、「何歳で結婚して、何歳で子供を産んで、何歳まで働いて、何歳まで生きたいか」という生涯におけるイベントの調査の結果が出ていた。

 ヘェーッ、人生を限定する生き方に興味があるんだ、と驚きました。人生百歳時代といわれる長寿社会に対峙する若者の寿命年齢に興味を持ちましたが、日本人の平均寿命、男性81.64歳、女性87.74歳に対して、理想の寿命は男性81歳、女性78歳と、男性はほぼ同じだが女性はかなり下回っています。これが若者の現実意識だとすれば、社会の見通しとかなりずれています。個人的現実と社会的現実がズレているのは、政治が常に国民の意識とズレているように「現実」はいつも世論とズレています。そこを露出するのが実は芸術なんですがねえ。

 ところで僕が言いたいのは、そんなことではなく、自分の人生計画に対して具体的なビジョンを持っていることです。僕に言わせれば、毎日が未知との遭遇だという人生に対して、計画を持つということです。計画のない生き方を批判するのは、これも社会の側の人間の発想ですが、人生って、そんなに計画通りに行くもんですかね。そりゃ計画通りに生きられればそれに越したことではないけれど、大方は現実が計画をつぶしていくもんです。だったら計画など立てない生き方を選んだらどうでしょう。

 計画を立てない生き方は運命に従う生き方だから、明日何が起こるかわかりません。起こっても、「これがワタシの選んだ道」だと思って受け入れるしかないという生き方です。然し、何が起こるかわからないことを恐れる人は、自分の計画に従って下さい。何が起こっても「面白いやんけ、どうせ人生は冒険なんだ」と思う人は運命に従って下さい。

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横尾忠則

横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。

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