しかし、老齢に達すると、計画は立てにくい。立ててもそれを壊すのは肉体である。老齢の生き方は、自然のなるようにまかせるしかない。死に抵抗して若返ろうとしても自然の摂理が許さない。「ほっとく」生き方、つまり運命におまかせしかない。
80代の高齢にかかると、自分でありながら自分でない不思議な感覚に襲われる。若い頃の運命は「来るもの拒まず」だったが、この歳になると、体が知力より先に拒んでしまう。僕が絵を描くのに飽きたというのも、自分の肉体からのメッセージである。肉体は引退したがっているのに、その肉体とズレている妙な好奇心がまだ残り火に風を送ろうとしているらしい。
そんな好奇心に対する好奇心もすでに僕の中にはないというのに。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰
※週刊朝日 2021年12月17日号