すぐに地域の子育てボランティアに参加し、子どもの権利やたたかない子育てについても勉強した。親には「子育て大変ですね」という共感の言葉を掛けた方が、受け入れられやすいことも知った。11年に「ママリングス」を設立し、虐待に関する勉強会を開くほか、産前産後の家庭支援なども行っている。
「目の前で暴力を見たという衝撃的な経験が、活動を続ける原動力になりました。まさに人生を変える出来事でした」
冒頭の11月の勉強会は2日間のプログラムで、民生委員など住民約115人が参加。児童相談所の職員や小児科医らの講義で虐待の知識を学んだ。また参加者自身が親や子どもなどの役を演じ、気になる子にどう声掛けをするかを考えるロールプレーにも取り組んだ。
講義で強調されたのは、虐待予防は「犯人捜し」ではない、ということだ。都内の病院で虐待対応に当たる看護師の塚松このみさんは、こう訴えた。
「加害者は罰すべき鬼親ではなく、傷つき困り疲れ果てた人で、支援すべき存在だと考えてください」
参加者の三島よしえさんは昨夏、ホームセンターで母親らしき女性が小学校低学年くらいの女の子を引きずって怒鳴り散らし、スマホで頭をたたくところを目撃した。「バッシーン!とすごい音がして、頭が陥没したんじゃないかと心配になりました」
しかし「声を掛けたら『お前のせいで恥をかかされた』と、後でまたたたかれるかも」などとためらううちに、親子を見失った。「あの時どうすればよかったのか」と悩んだことが、勉強会への参加につながった。
■米ポートランドの研修
三島さんは「勉強会に参加して、『お母さんも疲れていたのかも』などと、少しは想像するようになりました。今同じ場面に遭遇したら、お母さんに『どうしましたか』と優しく声掛けできると思います」と語った。
落合さんらが勉強会の参考にしたのは、16年に視察した米オレゴン州ポートランド市の事例だ。同市では教師や警察官、子どもの学校のクラブ活動のコーチやスクールバスの運転手など、幅広い職種の人に児童虐待の研修を実施していた。虐待の手前で「気になる子ども」を見つけ出せるのは、周りにいる地域の大人たちだからだ。
「例えばマンションの管理人は、住んでいる子の泣き声に気づけるかもしれない。コンビニの従業員も、出入りする子どもに目配りできます。多彩な職種の人が関わるほど、早期発見の機会は増えます」(落合さん)
(フリーライター・有馬知子)
※AERA 2021年12月13日号より抜粋