そもそも新株については危険性がはっきりしていない。ワクチンが効きにくいとのことでパニックが広がったが、症状は従来の風邪ていどで軽症との見方もある。もしそうだとすればデルタ株がオミクロン株に置き換わることで、むしろコロナ禍は収束に向かうことになる。過度な水際対策は国民生活に打撃を与えかねない。
政治は最悪を考えねばならない。たしかに新株が報告された時点では危険な可能性もあった。その意味では迅速な判断は必要だった。しかしそれは見直しも迅速に行うことで初めて評価できる。
今月5日に読売新聞社が発表した世論調査では、入国停止の支持が9割近くに上り、内閣支持率も6ポイント上昇した。政治的には「鎖国」が正解だと答えが出たかたちだが、囚(とら)われればポピュリズムに陥る。飲食店を狙い撃ちにしたこの2年の対策も、今は実効性が疑われ始めている。岸田政権には、研究の進展に基づいた柔軟な対応を望みたい。
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
※AERA 2021年12月20日号