農地を買うには、思いも寄らないハードルがたくさんあったという
農地を買うには、思いも寄らないハードルがたくさんあったという

「バンドをやっていた頃も、田植えや稲刈り、みかん収穫の時期は帰っていました。姉が地元にいるし、彼女の旦那さんも手伝ってくれて。当時はご近所の農家もけっこうあって、耕作放棄地も少なかったので、『ウチもこのまま、みんなで協力しながら田んぼと畑を保っていけるのかな』と思っていました」

■父親から田畑を買い取る決意

 状況が変わったのは5年ほど前。過疎化と高齢化、度重なる大雨の被害、猿や猪などが畑を荒らす獣害も加わり、農地を手放す人が増えてきたのだ。そこに参入してきたのが、太陽光発電業者。美しい田園風景は次々との太陽光パネルに取って代わり、その波は高橋さんの地元にも押し寄せた。

 自然エネルギーへの変換の必要性はわかっているし、「みんな土地にしばられることなく、好きに生きたらいい」という気持ちもある。でも、故郷の景色が太陽光パネルに塗りつぶされるのはどうしてもがまんできない。増え続ける自然災害によって、パネルが破損したときのことも心配――。そんな思いを父親にぶつけてみても、「おまえは東京におるんじゃけん関係なかろわい」と取り合ってくれない。そこで思い付いた苦肉の策が、自分で近隣の農地を買い取ることだったのだ。

 それからは苦難の連続。まず、地元に住民票がなければ農地は買えない。農転して宅地として購入しても、そこで農業をするのは法律違反。そもそも高橋家だけではどうにもならず、既に太陽パネル業者との契約を進めている近隣の農家を説得しなければならない。もし首尾よく農地を受け継いだとしても、周囲の手助けが期待できないなか、どうやって農業を続けるのか。

「色がバラバラのルービックキューブみたいに、どこから手を付けていいかわからない状態でした。当初は農地をピクニックができる野原みたいにしてもいいかなと思っていたんですが(笑)、農地として購入した土地は、農業をして収入を得なくてはいけない決まりになっていると役場で聞かされました。急に決めたことなのでビジョンも全然なかったし、知らないことばかりで」

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