清水義裕。高田馬場にある手塚プロで
清水義裕。高田馬場にある手塚プロで

 それが、90年代に入るとニューヨークにも寿司屋ができて、その寿司屋に清水は誘われる。ここで、アボカド巻やカリフォルニアロールを清水は初体験するのだが、ぴんとくるものがあった。日本に帰ってきて、会社で清水はこう提案する。

「これからは、アボ・カリ方式で行きましょう」

 寿司の通からいわせれば、アボカド巻や、海苔を裏巻きするカリフォルニアロールは邪道だ。しかし、寿司がアメリカに溶け込むには必要な変化だった。

 手塚のマンガも、新しい変化をうけいれなければならない。

 清水は、VHSからDVDへ動画を見る媒体がかわっていくことをいち早く見越して、他の作家が作品を新しい媒体に許諾するのをしりごみしているなか、いち早くDVDにも手塚のアニメを許諾した。

 そして、2000年代半ばすぎになると、電子書籍の上陸があった。ここでもいち早く手塚の作品を電子書籍化し、電子書籍で読めるように許諾した。現在手塚プロダクションの印税による収入は年間約1億2000万円。電子が6、紙が4。その割合が逆転したのは5年前だ。

 技術革新と戦わない。これはコンテンツを生業としているメディアがもっとも忘れてはならないことだ。たとえば新聞は、紙にすったものを、専売店を通して売る、この方式で、戦後ずっと伸びてきた。その右代表が読売新聞だ。しかし、インターネットという技術革新があれば、それと戦ってはだめなのだ。ヤフーの初代社長の井上雅博がいみじくも言ったように、「勝てない」からだ。いくら紙のほうが知識は定着する、と紙面で記事を展開しても、技術革新で生まれた新しいメディアに人は移っていく。

 そのことを、清水はよくわかっていた。

 NFTが出てきたときも、いち早く清水は動いている。NFTは、ブロックチェーンの技術を利用することで、これまでコピー可能だったデジタル上のアートを唯一無二のものにできる技術だ。これによって売買が可能になる。ビープルというデジタルアーチストがつくったNFTのモザイク画が、2021年3月、6940万ドルで落札されたというニュースを見て、清水は、これだと思う。同じことを手塚のキャラクターでできる。

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