たとえば、欠品する薬に「アルファカルシドール」がある。対象は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、慢性腎不全、副甲状腺機能低下症、ビタミンD代謝異常に伴う疾患など。厚労省はこの薬を指定難病で必要な患者などに「優先的に使ってほしい」(担当者)とし、リウマチ治療にも使われるが、「リウマチは代替が可能」(同)ともいう。

(週刊朝日2021年12月31日号より)
(週刊朝日2021年12月31日号より)

 しかし、医療現場の対応はそれほど簡単でない。アレルギー科とリウマチ科を掲げる北原医院の井上美佐院長はリウマチ患者を治療しており、「リウマチは安定させるのに時間がかかる。安定している人は他の薬に替えたくない。困っている」と話す。アルファカルシドールについて、井上さんの診療所には在庫が少しあったが、知り合いの医師は手に入らず、困っていたという。

 こうした薬不足の状態はいつまで続くのだろうか。日本総合研究所の成瀬道紀・副主任研究員は、後発薬メーカーが新たに設備投資をして製造すると、2、3年はかかるとみている。

 200社ぐらいが乱立する後発薬メーカーのなかで、大手3社は、不祥事のあった日医工のほか、沢井製薬と東和薬品。いずれも十数パーセント程度のシェアとみられている。薬不足で注文が殺到している沢井製薬と東和薬品は、従来の需要に対応するのが精いっぱいで、新規の注文に応じられない出荷調整の状況だ。

 大手の日医工が不祥事で抜けた分をまかなうのは「工場を一つつくってもカバーできない」(沢井製薬広報担当者)。この担当者によると、工場の建屋をつくるのに1年ぐらいかかり、承認を得て生産するまでに「数カ年かかる」という。

 東和薬品の広報担当者は「どこの原薬を使い、どのように製造するか、薬はすべて承認事項」と話す。1品目だけの変更届を提出する場合も、書類をそろえるのに時間がかかるという。製造する機械も汎用品でないため、発注してから届くまで時間がかかり、届いてからも承認のための試験に半年ぐらいはかかる。

 東和薬品では山形工場(上山市)の建屋にスペースがあり、1年前に発注した機械が最近届いた。生産開始は半年から1年後になるという。山形工場には用地にもスペースがあるが、新たに工場を建てると、これから2、3年はかかるともいう。

 医療現場からは健康被害の心配も出ている薬不足。医療現場は対応に追われ、患者が不安を感じる状況はしばらく続きそうだ。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年12月31日号より抜粋

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