だが、本人は喜ぶよりも「逆に怖いです。上がる分、(成績が悪ければ)下がりますからね」と不安を口にし、「(アップ分は)老後のために貯金します」とキッパリ。
ふだんも生真面目な性格そのままに「コツコツやります」が口癖の沢崎だが、42歳のチーム最年長・大野豊が「1年勝負」を口にしているのに、23歳の新人が老後の話をすることに違和感を覚えた記者も多かったという。
13年、打者として77試合で打率.238、3本塁打、20打点、投手として13試合登板で3勝0敗と高卒1年目で投打ともまずまずの成績を残した大谷は、年俸も1500万円から3000万円へと倍増した。
だが、大谷は「欲しいものは特にないです。(給料は)親が管理しているので、(両親が)買いたい物があれば、何でも買ってもらっていいと思います」と親孝行に徹していた。
実は球宴の特別賞で貰った新車も、運転免許がないので両親にプレゼントしている。
19歳といえば、同年代の若者なら遊びたい盛りなのに、入団以来、月々のお小遣いも手をつけずに残すなど、質素な生活を続けながら、野球ひと筋に徹したことが、“世界の二刀流”を生んだと言えるだろう。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。