モデル、俳優として活躍する中山咲月さん。トランスジェンダーであると公表するまでには生きていたくないと思うほどの葛藤があった。理解できなくても、「知ろうとすることだけはやめないでほしい」と語る。AERA 2021年12月27日号から。
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――今年9月、フォトエッセイ『無性愛』でトランスジェンダーであることを綴った。発売前は、公表することが怖かった。だが、刊行と同時に聞こえてきたのは「わかっていたよ」「変わらず好きです」という言葉だ。
フォトエッセイを出版する前に、まずはブログでファンの方々に伝えたのですが、そこに至るまでも、「自分はトランスジェンダーではないか」「いや、違うかもしれない」と、1カ月ほど悩んでいた時期がありました。「隠して生きていこう」と考えたこともありましたが、やっぱりつらくなってしまう。自分で自分を追い込んでいたのだと思います。心にふたをしようとしても、感情があふれ出てしまうような状態で、つらくて生きていたくないと思うようにもなっていました。
そんな時、仲の良い友人が「死ぬくらいだったら、わがままに生きていっていいんじゃない」と言ってくれて。精神的にギリギリの状態でしたが、「自由に生きていい」という言葉に背中を押されて、まずはファンの方に伝えてみよう、と思うようになったんです。
ファンの方々は「そうなんだね」と、とくに気にする様子もなく取り合ってくれたことがうれしかったことを覚えています。
――心と体の性が一致しないと気づいたのは、トランスジェンダーを題材にした映画「彼らが本気で編むときは、」(2017年)を観たことがきっかけだ。だが、それまでも、何げなくかけられる言葉に心がざわつくという経験を何度となくしてきた。
押しつけはよくない
自分自身を「女性である」と思ったことがないんです。「女性だけれど、かっこいい服装をしている」と言われるたびに、心のどこかで「ん?」と違和感がありましたし、「ジェンダーレス女子」と表現されるのも、「女性だ」と言われるよりはいいかな、というくらいの気持ちでした。
とはいえ、「自分のジェンダー観をすべての人に理解してほしい」と思っているわけでもないんです。自分にもわからないこと、受け入れられないことはたくさんありますから。