――芸能の世界で仕事をしてきたからこそ、多様な人々や作品に出合うことができた。一方で、芸能界に身を置いているがゆえに、自分自身をさらけ出す必要を感じた面もある。

 この仕事をしていなければ公表しなくてもよかったのではないか、と思うことはあります。でもオープンにすることにより、自分と同じような人が「中山咲月」という存在を知ってくれたらうれしい、という気持ちもあったので、世間に対しても言うべき、という思いに至りました。

 一方で、この仕事をしていなければきっと我慢して、いまも女性として生きていただろう、とも思います。言わなければいけないような立場に身を置いていたからこそ、自分の中のモヤモヤに答えを出すことができた。そう考えるといまの状況に感謝もしていますし、この世界で仕事をしていてよかったなとも思います。

 ジェンダーについて公表したことで、性格が明るくなったような気もしています。大きな言い方になりますが、「生まれ変わった」という感覚に近いんです。

 それまでは、目を合わせて人と会話することもできず、洋服を買いに行っても、話しかけられる前に逃げようとするほどでした。でも、いまは自分から話しかけられるようにもなりました。昔はマネージャーさんに「もっとやりたいことを言っていいよ」と言われても、あまり前向きになることができなかった。最近は、「こんなことをやってみたい」というアイデアがどんどん出てきます。自分について語ったという経験が、結果的に「行動力」につながっていると思っています。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2021年12月27日号