安田純平さんとみられる男性の動画の一場面
安田純平さんとみられる男性の動画の一場面

 ISは多数の人質を同じ部屋に監禁しており、互いの状況が分かったという。フランス人やスペイン人は「生存証明」の質問がされた後に解放されていったが、米英人は質問が来ないことから交渉が行われていないと察し、無理な脱走を図ったが失敗して激しい拷問を受けている。ISに人質にされた米英人はいずれも殺害されたか行方不明のままだ。

「ヌスラ戦線」にシリアで22カ月拘束され2014年に解放された米国人記者ピーター・テオ・カーティス氏は、身代金要求の脅迫を受けた家族とその支援者が中東・カタールの情報機関のトップに面談して協力を取り付けたことで「生存証明」の質問を送って回答を得ることができ、約1カ月後に解放されている。

 2018年10月に私が解放された直後に「カタールが身代金を払った」と報道された。各社とも根拠は在英シリア人NGO「シリア人権監視団」のコメントだけだが、同NGOはウェブサイトに「実は4日前に解放されていたが政治的な理由で発表が遅れた」「安田は記者会見でISに拘束されていたと明らかにした」などと虚偽情報を掲載しており、「身代金」だけは虚偽ではないと信じるに足る理由がどの報道にも見当たらない。各社ともこれらの虚偽については全く報道しておらず、都合のいい情報だけを拾っただけとしか受け止めようがない。

 同NGOは多数の通信員を反政府側地域に配置し、空爆被害などの目撃情報を集めて報告してきたことが評価されているのであり、「身代金を払った」という特定組織の内部情報とは全く性質が異なる。通信員自身が証人となり得る目撃情報と違って、内部情報は同NGOが拘束者自身でない限りあくまで「誰かから聞いた話」でしかない。私と同じ施設に拘束されていたイタリア人はさらに半年後まで解放されておらず、私の解放の際に「身代金を払わなければ解放しない」と拘束者側が吹聴するのは当然で、そのまま信じるのは軽率すぎる。

「カタールが仲介した事例がほかにもある」ことから「可能性が高い」とする研究者やジャーナリストもいる。しかし、カタールが仲介するのはあくまで救出の依頼があった場合で、偽犯人や偽仲介人が殺到する中から本物の拘束者を特定しなければならないのはカタールも同じであり、生存を確認しなければ身代金を払うわけにはいかないのも同様だ。

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カタール情報機関から「交渉成立」