■終わりなき障害児育児

 出産、子育て介護は「まさか」の連続。人生と同じで予定通りに事が進むことの方が少ないくらいだ。なかでも、わが子に障害や疾患があった場合、仕事を続けるのは容易ではない。

 重度の知的障害を伴う重い自閉症の長女(14)を育てる朝日新聞社フォトアーカイブ編集部の工藤さほさん(49)はこう話す。

「育児と仕事の両立のための制度はだいぶ整ってきましたが、どれも健常児の育ちの段階を基準にしたものです。障害のある子は、成長したからといって一人で登下校や留守番ができるようにはならないこともあります。終わりのない障害児育児と仕事の両立は本当に大変です」

 工藤さんは、出産前は海外出張もこなし、記者として取材に飛び回っていたが、長女の出産を経て12年に復職後は、子どもの療育施設の開所時間の都合や、通所、通院など子どもの用事で定期的に休まざるを得ないことから、時短勤務や勤務配慮制度が利用しやすい部署への配属を希望した。

 制度をフル活用して仕事を続けていたが、タイムリミットが迫る。同社では時短勤務が認められるのは小学3年生までだったからだ(現在は6年生まで)。工藤さんの場合は子どもの学年が上がったからといって、目が離せる時間が持てるわけではない。焦燥感に駆られた。

 16年11月、工藤さんは社内で障害児や医療的ケア児を育てる同僚と「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」を発足。個人で繰り返してきた陳情を団体としての陳情に変えて、労働組合を通じて訴えた。結果、朝日新聞社は17年に育児支援制度を拡充。障害児や医療的ケア児を育てる場合に限り、子の年齢に関係なく時短勤務や勤務配慮の制度を使えるようになった。

■死後も子の暮らし守る

 子どもに重度の障害がある場合、夫婦のどちらかが仕事をあきらめるケースも多い。工藤さんはなぜ制度変更を働きかけてまで働き続けようと考えたのか。

「障害児の育児は思わぬところで出費がかさみますし、私たちのような親は、老後の資金だけでなく、自分たちの死後も子どもの暮らしを守るために必要なお金をいかに確保するのかが大きな課題です。子どものために何としてでも勤務を続けなければ、という思いがありました」

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