ワークスタイルが多様化する中、さまざまな事情を抱える社員も少なくない。企業側も従来の制度にとどまらない、仕事と家庭の両立支援に取り組み始めている。AERA 2022年10月31日号の記事を紹介する。
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制度を活用しやすいよう、企業側のひと工夫も大切だ。
精密機器メーカーのセイコーエプソンでは、今年2月、男性育児休職取得率100%の目標を掲げると、さっそく既存制度を利用して、育休を取る男性社員が増えてきた。総務部門で働く長野県松本市の佐藤拓馬さん(30)は今年6月から約2カ月半、妻の出産に合わせて休暇を取った。利用したのは福利厚生制度の一つ「健やか休暇」だ。
■当初は社員の通院支援
もともと従業員本人の傷病時の通院に重きを置いてできた制度だが、そこから派生し、現在は介護や育児事由にも使えるようになった。通常の年次有給休暇は取得しないと3年目には失効になり、消化できずに終わるケースも多く見られた。そこで失効してしまう年休を、60日を上限に積み立てることができるようにした。積み立てた休暇は自分の病気や育児、介護の時に有休として使うことができる。会社として「男性育児休職取得率100%宣言」を出したことで、取得の機運が高まった。
宣言にあたり、育休制度について必ず直属の上司から説明を受けるという仕組みを構築した。新しく子どもが生まれると申し出た社員を登録。その後、直属の上司が面談し、育児休業制度の説明を行い、社員から育休取得の希望の有無を伝えるというもの。必ず上司から説明させることで、育休の一つの壁である上司側の理解も促す目的がある。
佐藤さんは、制度を活用したことで、コロナ禍の出産を支えられたと話す。
「妻もフルタイム勤務をしていて、お互いの実家も遠い。当初は里帰り出産も考えていましたが、コロナ禍で難しいなと思いました。自分が育休を取ると話したらお互いの両親もすごく安心してくれたし、成長が著しいこの時期の子育てに積極的に関われたのは本当によかったです」