落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ハロウィン」。
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大学時代。11月頭に「芸術祭」と呼ばれる学園祭があった。当時、斜陽サークルだった日芸落研、私の代は一人。必然的に2年次には芸術祭の責任者となった。文化部全体の打ち上げでは、おのおののサークル責任者が「仮装して参加」という慣例があった。
音楽系サークル女子のナース服だったり、旅系モテ男子のペプシマン(懐かしい)だったり……そんなモノは仮装とは言わぬ。単なるコスプレ。お遊戯会だ。うんこだ……と、おかしなプライドだけは高い私はアリモノを着用する仮装は嫌だった。仮装とは、自分ではない何者かになることだ。まず「今、自分になにが足りないか?」から考える……そう、海だ。関東の内陸に生まれ、大学も内陸、落研という閉鎖的な部活に明け暮れる自分に無いもの、それは、the Ocean。「海に漕ぎ出すには……船!!」。ということで、とりあえず船を造ろう。なにが「とりあえず」だかは知らん。あの頃は何かがおかしかった。
材木を集め、トンカントンカンと船の枠組みを拵えた。全長2メートル、横幅1.2メートルの骨組み完成。段ボールを貼り付けて船らしくしていく。「何、やってんの?」と聞かれ「海に出るために船を造ってますが」と言った私に「邪魔だし、気持ち悪い」と女の先輩が吐き捨てた。なんとでも言え。ラッカーで塗装。頭がクラクラしてご機嫌になる。造船ハイ。船首に髑髏をあしらう。船腹にオールを5対つけ、マストを立てる。3日で私の海賊船が完成した。
「……仮装じゃないのか?」「……はっ!」。先輩に言われて目が覚めた。どうする?……そうだ、俺は海賊王になる。当時の海賊王といえば「小さなバイキングビッケ」のお父さん。ツノの付いたヘルメット、裸に黒の革ベストに黒のブリーフ(スタン・ハンセンのイメージ。本物のビッケ父は違う)、黒のアイパッチに髭面だ。海賊船は中に入って両肩に背負えるようにベルトを付け改良を施した。