「愛情で結ばれているパートナー関係が愛情の切れた時にどうなるか。その本音の部分を書いてみたいと思いました。今や3組に1組のカップルが離婚しますが、それも30代まで。40代に入ると離婚の数は減るんです。お金の問題もありますし、ビシッと答えが出ないまま毎日の忙しさに紛れてしまうんでしょうね」

 一方百合子は有能な主婦として家庭を支えてきたが、定年で家にいるようになった夫を煩わしく思い、結婚する気のない一人娘にも手を焼く。日々の生活の中で「結婚ってなんだろう?」と考えるようになった百合子は、いろいろな人と結婚について話すようになっていく。たまたま一輝の愛した女が百合子の姪だったことから対面した梓とすら、結婚について語り合うのだ。

「百合子を設定する時に、絶対にある種の典型でいきたいと考えました。私のように九州の男尊女卑の気風が強いところにいるといろいろなことが見えてきます。一見男を立てているようで、実は女性がすべて手綱を握り社会を動かしている。百合子もそんな能力の持ち主です。彼女の存在から結婚の良さを感じてほしいと思いました」

 梓の救いは仕事で出会った若い作曲家・理比人(りひと)の存在だ。ドイツ語で「光」という意味の名を持つ理比人は梓の良き理解者となる。

「理比人が救う一定の人は必ず存在すると思っています」

 愛について深く考える理比人。彼がパートナーと選んだ「結婚」がほのかに梓を照らす。未婚、既婚、非婚、事実婚。すべての人に「結婚」について考えさせる作品である。(ライター・千葉望)

AERA 2022年10月31日号

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