「しかし、A君の賃金を最低賃金額まで引き上げたとしても、まだパート社員の時給よりは低いのでこのままだと辞められてしまいます。会社に残ってもらうためにはどうすればいいでしょうか?」
「正社員とパート社員の待遇差は、給料のみではなく次の事項も含めて判断します」
C所長は翌日の朝、総務課長にD社労士のアドバイス内容を報告した上で、Aの基本給を引き上げることと、最低賃金との差額分を支払うことを依頼し、帰京した。
パート社員と正社員の違いとは?
3日後、総務課長からC所長に連絡があり、令和4年10月以降のAの給料は、基本給19万7000円、主任手当3000円で合計20万円になった。C所長は早速Aに知らせたが、時給換算すると1250円で、まだパート社員より低いと言い返された。
そこでC所長は、パート社員は1年契約なので正社員に比べて雇用が安定していないこと、働く時間が短いので社会保険に入れないこと、Aには年2回、それぞれ50万円ずつ支給されているボーナスと入社3年目から適用になる退職金制度がパート社員にはないことを説明し、Aは納得した。そしてその場を離れようとしたとき、C所長は付け加えた。
「総務課長の話だと、昨日の役員会で『来年の3月末で東京営業所を閉鎖する』ことが正式に決まったとのことだ。だから私と営業職の社員は4月以降全員本社に戻るよ」
「じゃあ自分はどうなるんですか?」
「君は東京営業所勤務の限定採用だから、ここが閉鎖になると仕事がなくなっちゃうよね。でも、もし本社に来てもらえるなら総務課で受け入れるそうだ。給料は下がるけど、北海道の大自然に囲まれて暮らすのは最高だよ」
「自分、寒いところは超苦手なんだけど……」
意外な展開に困惑したAだった。